クトゥルー神話の神々は<旧神>と<旧支配者>の 2 群の神々が登場します。以下の神々の解説はリン・カーター著、大瀧啓祐訳「クトゥルー神話の神々」によるものです。
旧神と呼ばれる神々は宇宙の最初の種族であり、旧支配者と対立する存在です。旧神の姿はクトゥルー神話の中にはほとんど現われませんが、彼らの印を刻んだ護符は旧支配者とその眷属を封印する力を持っています。
クトゥルー神話の名前の由来になっているクトゥルーを始め、この神話体系に登場する異形の神々のほとんどは旧支配者と呼ばれる存在です。
旧支配者は、「古(いにしえ)のもの」、「邪悪なるもの」、「来たるべきもの」、「始原のもの」とも呼ばれ、人類の原初的な恐怖の対象と考えられています。
旧支配者は遥かな太古に地球を支配しており、旧神との戦いに破れて、現在は各地に封印されています。しかし、旧支配者の崇拝者はいつの日か旧神の封印を破り、この地球の正当な支配権を回復する、と予言されています。
旧支配者は地、水、火、風の 4 つのグループに別れており、旧神に対しては共通する敵意から結束するものの、グループの間では互いに対立しています。旧支配者の存在を知るごく少数の人々は、彼らを倒すことはできないものの、彼らの対立を利用して、封印を破ろうとする旧支配者を再度眠らせようと試みています。
混沌のただなかで、奇異なものにとりまかれた黒い玉座から支配する、この盲目白痴の神は「角度をもつ宇宙の彼方の途轍もない核の混沌」と描写されるが、旧神に対する謀叛において旧支配者の指揮をとり、このために外世界に追放されて知性を奪われた。この地球を創造したのはアザトースであり、ナイアーラトテップが到来した後、封印が破られるや、地球を破壊すると予言されている。『未知なるカダスに夢を求めて』には、つぎの描写がある。
夢もおよばぬ秩序ある宇宙の外でいわんかたなくざやめく、あの衝撃的な最後の危機こそ、なべての無限の中核で冒涜の言辞を吐きちらかして沸きかえる、最下の混沌の最後の無定形の暗影にほかならぬ ― すなわち時を超越した想像 もおよばぬ無明の房室で、下劣な太古のくぐもった狂おしい連打と、呪われたフルートのかぼそい単調な音色のただなか、飢え噛りつづけるは、あえてその名を口にした者とてない、果てしない魔王アザトース。
不浄なるものアブホースは、ウボ=サスラとともに旧支配者の親であり(他の星から地球に到来したツァトゥグア、クトゥルー、ヨグ=ソトースは除く)、ヒューペルボリアのブーアミタドレス山の地下にある<アルケタイプ>の洞窟の下、粘液質の深淵に棲む。そこで果しなく「忌わしい分裂繁殖」をつづけている。灰色の脈うつ液体じみた塊に似ており、間断なくさまざまな悍ましい生物を生みつづける。もっとも古い神々と齢を同じくし、大氷河時代以前にコモリオムのラリバール・ヴーズ卿が訪れたことがある。
父なるイグは南米のケツァルコアトルやククルカンの伝説の源泉であると思われる「妖蛆の秘密」でふれられているが、『ネクロノミコン』ではとりあげられていない。ヨーロッパから白人の定住者が到来するまえに、アメリカ・インディアンによって崇拝され、いまもインディアンには知られ、人間とのあいだに悍ましい子供をもうけている。ナグやイェブとともに、有史前のムー大陸で知られ、地下のクン=ヤンにはいまもイグにささげられた神殿がある。
蛇を髭としてはやすバイアティスは旧支配者のなかでは小神にあたり、おろらくは父なるイグの同類(もしくは化身)だろう。どのような内容であるかはわからないがい、ルドウィク・プリンの『妖蛆の秘密』で言及されている。
ウボ=サスラは地球上のすべての生命の源である。クトゥルーやツァトゥグアが他の星より到来するまえから地球におり、地球の生命すべてが死にたえた後も地球にとどまるとされるが、この世界の最後の住民であるとはされていない。定まった形をもたぬウボ=サスラは、『エイボンの書』において「頭手足なき塊」と記され、地球上の全生命が「大いなる時の輪廻のはてに、ウボ=サスラがもとに帰する」と予言されている。この神は旧神にさからったものたちの親である。
闇の神ガタノトーアは、最初の人類が進化した原始ムー大陸のクナアにそそりたつヤディス=ゴー山にある、ユゴス星から到来した生物が築いた古代の要塞地下の穴に幽閉された。外宇宙の最初の住人、旧神によって、そこに幽閉されたのである。最初はムーで、後にはアトランティスとレンの教団によって崇拝され、ガタノトーアの名声はエジプト、カルデア、ペルシア、中国、メキシコ、ペルーにまで広まった。アフリカの忘れ去られたセム族の王国の神であい、フォン・ユンツトによれば、伝説上のクン=ヤンの地下王国の神でもある。大きさは巨大、触腕や長い鼻や蛸のような目を備え、なかば無定形で、一部が鱗や皺におおわれている。ガタノトーアを直視したり、その姿を思い浮べただけでも、全身が麻痺してしまう。
グリーンランドの神話上の神グノフ=ケーは、ラーン=テゴスの化身のひとつであり、この姿でもってあらわれ、半人間のグノフケ族をひきいてロマールに攻めこんだ。グノフ=ケーの指揮のものと、毛むくじゃらの人肉嗜食者ども(その子孫が現在エスキモーと呼ばれている)は、氷河が到来するまえに、大理石造りのオラトーエとロマール全土を席巻した。
血をすするこの神は、触手のついた巨大な耳と、太くてずんどうな鼻、巨大な牙をもっているとされる。その体は生ける石から構成される。ミリ・ニグリが仕える。
大いなるラーン=テゴスはロマールが誕生するよりも遥か以前に滅亡した、伝説上の忘れ去られた極地文明の凶暴な生き残りであり、もともとは太陽系の果てのユゴス星から到来した。グノフ=ケーの顕現をとってイヌート族をひきい、オラトーエおよびロマール全土を征服した。うずくまう悪意ある存在で、身長十フィート、六本の脚と球状の胴を有し、泡を思わせる頭部には、三つの目、長い鼻、ふくれあがった鰓、すさまじい蛇のような吸引管があり、上肢には蟹に似た鋏が備わっている。つぎの呪文で召喚されるかもしれない。
うざ・いぇい! うざ・いぇい! いかあ はあ ぶほう−−いい らあん=てごす くとぅるう ふたぐん らあん=てごす らあん=てごす らあん=てごす!
伝説によれば、ラーン=テゴスが死ぬようなことがあれば、旧支配者は復活することができないとされる。
クトゥルーの半兄弟である大いなるハスターは、ヒヤデス星団のアルデバラン近くの暗黒星にあるカルコサの都市に近いハリの湖に、旧神によって幽閉された(はっきりとはしないが、カルコサでは羊飼いの神として崇拝される)。風の精の首領であり、星間宇宙を飛行できる蝙蝠の翼をもつバイアクヘーを従者とする。地球での従者は忌わし雪男(ミ=ゴ)と呼ばれる、大きさは人間くらいのピンク色をした甲殻生物で、レン高原(その地上への延長部はヒマラヤの高みにある)やヴァーモント州の一部の山に棲んでいる。バイアクヘーを呼びだすには、まず旧神の黄金の蜂蜜酒を飲み、魔力ある笛を吹き、つぎの呪文をとなえる。
いあ! いあ! はすたあ! はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ふるぐとむ あい! あい! はすたあ!
不可解にもハスターは全面的に人間に敵対するものではなく、過去において人間を助けたこともある。ハスターのことは、ビアース、チェンバース、ラブクラフト、とりわけダーレスによって報告されている。シュブ=ニグラスの夫である。
旧神によってアークトゥルスに幽閉された風の精ツァールは、ロイガーと双生児であって、名状したがきものハスターの従者である。地球で、インドシナ、ビルマ、レン高原、スン高原の荒廃した石造都市に棲むトゥチョ=トゥチョ人が仕えている。
イタカは永劫の太古に名状しがたきものハスターを助けるために呼びだされ、ハスターの意志に従う風の精である。旧神を相手の闘いではたした役割により、遥かな極地に追放され、その地で化身のウェンディゴして崇拝されている。崇拝する者以外にあえてイタカを目にする者はない―崇拝者以外の者が見れば死が訪れる。人間の目には、空を背景にした黒い輪郭、恐ろしい獣の輪郭、目があるべきところに鮮紅色の星がふたつ輝く、人間の顔の戯画としてうつる。
ハスターに仕えるいまひとつの風の精であり、ビルマやチベット高地と同様、中央アジアのスン高原に棲む、特異な人間もどきのトゥチョ=トゥチョ人に仕えられる。レイニーの『クトゥルー神話小辞典』によれば、双子の兄弟ツァールとともに、アークトゥルスに幽閉されているらしい。アークトゥルスが地平線の上に昇り、満月が空にあるときにだけ、幽閉の場所を離れることができる。
水の精の首領クトゥルーは、スペイン統治以前のペルーのケチュア=アヤル族によって闘いの神ウイツィロポクトリとして崇拝され、また太平洋全域で海の神としてあがめられ、アトランティスのポセイドンをはじめとする海の神々の原形である。イオドや燃えあがるものヴォルヴァドスとともに、原始ムー大陸で最初の人類に崇拝された。氷河期にクトゥルーとともに他の星から到来した不死の生物が棲む、オクラホマ州カド郡地下の洞窟世界、青く輝くクン=ヤンの住人にも知られている。蛸の頭部を備え、そのかお はのたうつ触腕の塊で、鱗におおわれるゴム状の体をもち、四肢には長い鉤爪があり、細長い翼がふくれあがった胴に付着している。かつて旧支配者の大都市であり、『ルルイエ異本』発祥の地である、海底に水没したルルイエの石造都市に幽閉され、父なるダゴンと母なるヒュドラにみちびかれる長寿の無尾両棲類、深きものどもに仕えられ、まもられている。人間のなかいる下僕たちはクトゥルー教団を組織してクトゥルーを崇拝し、クトゥルーをなすすべもない死の眠りにとらえる旧神の印から解放しようと、たえまなくこころみている。
そは永久(とこしえ)に横たわる死者にあらねど 測り知れざる永劫のもとに死を超ゆるもの
『ネクロノミコン』にある上の上の二行聯句は、『ルルイエ異本』にある有名な一節「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるぅ るるいえ うがふなぐる ふたぐん」(これは人類誕生以前のルルイエ語で、「ルルイエの館にて死せるクトゥルー夢見るままに待ちいたり」という意味をもつ)と同様、クトゥルーの最終的な帰還を意味している。ミスカトニック大学附属図書館に保管されているラバン・シュリュズベリイ博士の不完全な未完の原稿、『ネクロノミコンにおけるクトゥルー』は、クトゥルーとその教団に関する研究書である。
父なるダゴンは旧支配者のなかでは位のおとる海の神で、クトゥルーの従者であり深きものどもの首領である。古代ペリシテ人に魚神として知られていたが、現在ではアーカムをはじめとする街のダゴン秘密教団に属する、退化した住民や半人間に崇拝されている。ダゴンの配偶者は、<クトゥルー神話>において数少ない女神、ヒュドラである。
父なるダゴンとともに、母なるヒュドラはダゴン秘密教団に崇拝され、<クトゥルー神話>では海の女神としてあらわれる。夫ダゴンとともに、深きものどもを支配し、大いなるクトゥルーに仕える。ヒュドラとダゴンがどこに幽閉されているかはわからないが、ルルイエではなさそうで、おそらくはインスマス近くの悪魔の暗礁沖、柱が林立するイハ=ントレイに幽閉されているのだろう。
ツァトゥグアは地球が創造されてまもなく、惑星サイクラノーシュ(土星)から地球に到来したが、土星本来の神ではない。地の精であって、青く輝くクン= ヤンの下、赤く輝くヨスの下、暗黒のンカイに棲む。クン=ヤンの住民が外の世界にツァトゥグア崇拝をもたらしたのである。ムー・トゥーランの偉大な魔道士エイボンがかっつツァトゥグアを崇拝したヒューペルボリアには、この神にささげられた神殿がいくつもあった。旧神を相手の闘いにおいてはたした役割のため、アブホースやアトラク=ナクアとともに、ヒューペルボリアのヴーアミタドレス山地下の深淵に幽閉されている。柔毛におおわれ、黒ぐろとして、うずくまった太鼓腹の蟇に似ている。『ナコト写本』をはじめ、コモリオムの神話であつかわれていおり、この神を崇拝する忘れ去られた伝承の最古の呪文は、『エイボンの書』に記されている。
ツァトウグアとともに幽閉された蜘蛛の王は、黒く輝くンカイのなか、もしくは下に棲み、広大な深遠に巨大な巣をはりつつ、無限の幽閉期間を送っている。人間とおなじくらいの大きさの蜘蛛の体をもち、昆虫の器官を多数有し、狡猾さをたたえた小さな目は、黒檀色の体にはえる毛につつまれている。
イェブは伝説上のクン=ヤンや古代ムー大陸で崇拝された、地の精であると思われる。くわしいことはわからない。
癩病におかされたヨグ=ソトースは、地の精のなかでももっとも強大な力をもち、ツァトゥグアやクトゥルーとともに他の星から地球に到来した。「輝く球体の集積物」として描写され、最古のヨグ=ソトース崇拝の儀式や伝承は『エイボンの書』に書きとどめられている。人間とのあいだに忌わしい子供をもけている。大いなるヨグ=ソトースは、すべての時とともに存在してあらゆる空間と身を接っし、アザトースとともに混沌の外に幽閉された。太陽が第五宮にはいり、土星が三分一対座つくるときを待ち、炎の五芒星形を描き、第九の詩 (『ネクロノミコン』完全版 751 ページにある長い呪文)を三度となえ、聖十字架頌栄日と万聖節前夜の儀式を繰り返すことによって、ヨグ=ソトースあるいはその顕現を召喚できる。アルハザードによれば、「時空の制限うけることなき」ヨグ=ソトースは、この宇宙の外に通じる究極の門を守護するという。ウムル・アト=タゥイル(古ぶるしきもの)に仕えられ、多数の人間の従者も有する。ユゴスの甲殻生物は彼方のものとして崇拝する。
古ぶるしきものウムル・アト=タゥイルは、ヨグ=ソトースの筆頭の下僕であり、古きものどもの首領であり、台座の上で永遠に考えこみ、ヨグ=ソトースのために多次元の戸口を守護している。人類の進化がはじまるまえ、いや最初の哺乳類が誕生するまえ、太古の生物(おそらく爬虫類)が最初の都市をこの地球上に築いた何百万年もまえから、地球の実体として存在していた。ウムル・アト =タウィルのもつ力はすさまじく、ロマールが地球より隆起し、猛燎たる霧の末裔が到来して往古の知識を人間に教えて以来、世界中で怖れられている。
夢見る者ランドルフ・カーターは、銀の鍵をつかって第一の門を通過し、それによって古きものどもの一員となったとき、延命せられしものに出会い、なにか判然としないおぼめく色の織物でつくられた、のぞき穴とてないローブにすっぽり身をつつみ、背丈は普通の人間の半分くらいで、輪郭がはっきり定まっていないものとひて見た。カーターに対する振る舞いは友好的であったが、本来は危険な存在であって、『トートの書』は一目見ただけで怖ろしい代償を支払わなければならないと警告し、『ネクロノミコン』はその警告を繰り返し強調している。
この途方もない力をもつ地の精は<クトゥルー神話>で奇妙な地位を占める。旧支配者の使者にして従者でありながら、旧支配者の最強のものと等しい力を有するのだ。古代エジプトで最初に崇拝された神であり、その地での称号として、古の神、秘められしもの、復活の神、カルネテルの黒き使者、星のあいだを歩むもの、砂漠の王、邪悪の支配者、無貌のもの、暗黒神等があった。神の三重冠をいただく―禿鷲の翼とハイエナの体をもつ―黒い無貌のスフィンクスとして、エジプト人に知られていた。エジプトの予言によれば、地球最後の日に蛇杖をもつ黒人として砂漠からあらわれ、訪れる地はすべて、人間が死に、ピラミッドが崩れて塵と化し、「野獣どもそのあとにつづき、その手をなめる」とされている。
ナイアーラトテップはさまざまな化身をとる。闇をさまようものとしては、光を怖れる三つの突出した目のある、黒い翼を備えたものとしてあらわれる。この顕現においては、「時空に通じる窓」、すなわち輝くトラペゾヘドロンを通して崇拝され、召喚される。輝くトラペゾヘドロンはもともとユゴス星でつくられ、旧支配者によって地球にもたらされ、南極の海百合状生物に秘蔵された後、ヴァールシアの蛇人間によって海百合状生物の廃虚からひきあげられ、遥か後にレムリアではじめて人間の知るところとなったが、レムリアはアトランティスと共に海中に没した。さらに後に、ミノアの漁師がひきあげ、影濃いケムから来た商人に売りわたされ、これを崇拝するために異端のファラオ、ネフレン=カは、ハドスに神殿を建立し、自分の名前があらゆる記録から抹消されることになる行為をおこなった。イノック・ボウアン博士によってナイルからもたらされると、ボウアンが 1844 年 5 月に組織した、ロード・アイランド州プロヴィデンスの星の知慧派の崇拝するものとなった。星の知慧派が消滅した後、輝くトラペゾヘドロンはフェデラル・ヒルの荒廃した教会に放置されたが、作家のロバート・ブレイクが見つけだし、デクスター医師によって、1925 年にナラガンセット湾に投げこまれた。
ナイアーラトテップのいまひとつの化身は、中世ヨーロッパの魔女の宴における闇の魔神であり、暗きもの、あるいは魔物の使者として知られ、「豚の鼻、緑色の目、怖ろしい牙と鉤爪を備えた、柔毛におおわれる真っ黒な」生物として描写される。
ときとして不可解にも慈悲深いものとしてあらわれることもあり、地球本来の神々の守護者として顕現するときには、凍てつく荒野のカダスの温厚な小神たちをまもり助け、深紅のローブをまとい、古代のフォラオのような誇らしげな若者の顔をした、長身痩躯の姿であらわれる。
しかし通常の姿は狂える無貌の神であり、闇のなかで永遠に吠えつづけ、ふたりなる無定形の白痴のフルート吹きの奏でる単調な調べになだめられる。千もの異なった姿をとることができ、人間の姿をとることもある。怖れるものはただ火の精クトゥグアだけで、旧神によって幽閉されることもなかったらしい。七つなる太陽の世界に棲み、地球での住処は、ウィスコンシン州中央部北のリック湖周辺のンガイの森である。
シュブ=ニグラスは強壮な地の精にして、豊饒の女神であり、名づけられざるものの妻である。およそ 20 万年前の原始ムー大陸で崇拝され、おそらくアスタルテやアシュタロス崇拝となんらかの関係がある。旧神によって幽閉されたが、その場所は不明であり、『ネクロノミコン』には、「シュブ=ニグラスあらわれいで、その怖ろしさを倍加させ」るだろうこと、おそらく千匹の仔と思われる「森のニュンペー、サテュロス、レプレコン、矮人」のすべてがふたたび仕えると予言されている。
地の精の小神ナグは、イェブやクトゥルーとともに、伝説上の青く輝くクン= ヤンで崇拝される。イェブと混同され、ナイル河に沿う閉ざされたハドスの谷でネフレン=カの信奉者に崇拝されるのは、その地に知られざる神、ナブにささげられた墓があるためである。
ニョグダは地の精の小神であり、ともに闇に棲むものと呼ばれるために、ナイアーラトッテプの化身と考えてよいかもしれない。ねばねばした黒いアメーバーとしてあられ、地下の深淵に幽閉されながらも、ときには大破壊を行うためにその地からあらわれることがある。『ネクロノミコン』には、ニョグダが「輪頭十字、ヴァク=ヴィラ呪文、ティクゥオン霊液」によって退散するとある。つぎにあげるものがヴァグ=ヴィラ呪文であると思われる。
や な かでぃしゅとぅ にるぐうれ てるふすな くなぁ にょぐだ くやるなく ふれげとる
『妖蛆の秘密』で暗きハンと呼ばれるこの神は、旧支配者のなかでは小神にあたり、ほとんど何も知られていない。おそらくは地の精であ、太古の中国で崇拝されたのかもしれない。
この小神はロバート・ブロックが記す「バイアグーナの謎のたとえ」という簡単な言葉によってしか知られていない。無貌はナイアーラトテップの第一の特製であるので、強壮なる使者の化身なのかもしれない。あるいは地球本来の神である。
クトゥグアは旧神によってファマルハウトに幽閉された火の精であり、人間の目には「炎の生ける火花、光の小球のむらがるもの」としてうつる。この神の力を召喚するには、フォマルフトが地平線の上に上るのも待ち、つぎの呪文を三度となえなければならない。
ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! くとぅぐあ
火の精としてのクトゥグアは、シュブ=ニグラス、ツァトウグア、ニョグタといった地の精と対立し、とりわけナイアーラトテップには強く敵対し、這いよる混沌ナイアーラトテップの地球上の住処であるンガイの森においてさえ、ナイアーラトテップに対抗するために呼びだされたことがある。炎の生物がクトゥグアに使える。
温厚にして慈愛深い地球本来の神々は、強壮なる使者にまもられて、南極ではなく、地球の夢の国にある、凍てつく荒野のカダスに棲む。
源なるものイオドとして顕現するこの神は、最果の銀河の彼方で崇拝される。ムー大陸の最初の人類には輝ける狩人として知られ、ヴォルヴァドスやクトゥルーとともに崇拝された。
女神イホウンデーは魔道士エイボンの時代にヒューベルボリアで崇拝された。単純な自然の女神であって、この女神に仕える角をつけた神官たちは、蝙蝠の翼をもつナマケモノに似たツァトゥグアの崇拝を、長きにわたって社会から葬り、信用を落した。
灰白湾の燃えあがるものヴォルヴァドス(あるいは旧支配者の火の精に属するのかもしれない)は、太古のムー大陸で崇拝された。
夢の神々の一員であるコスは、ヒュプノスよりも温厚である。コスの印は夢見る者が特定の門の上に見いだすものであり、地球本来の神々の封印として、人間には犯すことができない。コスはクトゥルーやヨグ=ソトースとともに、有名な宝石、アッシュールバニバルの焔をつくりだし、それをフニスルタンにあたえたが、この魔法使いはこれをもってニネヴェから逃亡し、アルハザードが円柱都市あるいは邪悪都市と呼ぶ、アイレムと同一のものかもしれない、沈黙につつまれう黒い石造都市カラ=シェールへ行った。
ゾ=カラールはタマシュやロボンとともにナルサスで崇拝された三神のひとりである。
アイ河に沿ってトゥラー、イラーネック、カダテロンの都市を築いた、サルナスの黒い羊飼いの民に崇拝される三神のひとりが、この聖なるタマシュである。イブの神ボグラグの呪いによって崇拝者とその都市にふりかかった災厄に対しては、それをくいとめる力もなかった。
ナス=ホルタースは夢の国のオオス=ナルガイにあるセレファイスで崇拝されるが、その地ではこの神の神殿がトルコ石で造られ、神官たちは蘭の花冠をいただいている。
ニオス=コルガイは地球最後の住民となる定めの神である。人類が最後の大陸ゾティークで滅亡し、人類のあとをついだ甲虫類が地球を支配して、時を旅する大いなる種族に身体を奪われ死滅する地球最後の日々に、この神が異星から炎の彗星に乗って地球に訪れるという。
わたしはノーデンスをどうあつかえばいいのか途方にくれてる。レイニーはノーデンスを旧神のひとりとしているが、わたしにはレイニーの主張を裏づける証拠がなにひとつ見いだせない。旧支配者の一員でないことだけは確かであって、それでなかば投げやりなやりかただが、地球本来の神々にくわえることにした。おそらくまちがってはいないだろう。
ノーデンスは夜の魍魎どもの支配者であり、夜の魍魎どもは不気味なほどやせこけたゴム状の冷たい体をもち、顔はなく、角と尾と蝙蝠の翼を備え、明らかに食屍鬼と結託しており、ンカイと外なる虚空のあいだを飛び、地球の夢の国の特定地域で知られている。
夢の神々のひとりであるヒュプノスは、古代ギリシアで知られていた。人間以上の美をたたえた彫像の顔をもつ光線と描写するのが一番いいだろう。あまりにも深く夢の世界にはいりこもうとする者には、ヒュプノスの呪いがふりかかる。
ムナールの人類先行都市イブで崇拝された神であり、その呪いが後に災厄都市サルナスをほろぼした。一万年以上もまえにイブの住民に崇拝され、カダテロンの円柱には、声をもたない目の突出した緑色のぶよぶよした姿であると記されている。緑色の石からつくられた山椒魚に似た偶像でもって、イブの住民はボクラグの姿を知った。
ロボンは人類がまだ幼かったころ、ムナールのサルナスで崇拝された三神のひとりである。